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保育園・幼稚園・子ども園の現場100人インタビュー vo4. 〜働きやすい園だった。それでも、わが子の入学式に出られないかもしれない働き方は続けられなかった〜

「働きやすい職場なら、長く働き続けられる」私は、どこかでそんなふうに考えていました。人間関係が悪くない。職場の雰囲気もいい。デジタル化も少しずつ導入され、以前より仕事も楽になっている。それなら、辞める理由は少なくなるはずです。

でも、今回の「保育園・幼稚園・子ども園の現場100人インタビュー」で話を聞いて、その考えは少し変わりました。今回お話を聞いたのは、保育士として12年間働き、今年3月に退職した方です。

本人は、勤めていた園について、「働きやすいし、良い意味で緩い」と話していました。辞める人も少なく、結婚や引っ越し、定年などを除けば、長く働く人が多い職場だったそうです。それでも本人は辞めました。きっかけは、上のお子さんが小学校に入学することでした。

入学式に出られないかもしれない

この方は、それまでフルタイムで働いていました。早番の日は朝6時45分に家を出る。遅番の日は、仕事が終わるのが19時を過ぎることもある。そんな働き方を続けていました。そして職場には、暗黙のルールがありました。「1日に休めるのは2人まで」というものです。

入学式でも卒業式でも、そのルールは変わりません。同じ年齢の子どもを持つ職員が3人いれば、誰か一人は休めない可能性があります。

本人は、「私は全部に出たかった」と話していました。だから、上のお子さんが小学校に入学するタイミングで、働き方を見直すことにしました。職場が嫌いだったわけではありません。人間関係が決定的に悪かったわけでもない。それでも、「子どもの節目に立ち会える働き方をしたい」という気持ちのほうが大きくなったのです。

「良い職場」と「自分に合う働き方」は同じではない

保育士の離職について考えるとき、

給与。
人間関係。
残業。
持ち帰り仕事。

こうした分かりやすい問題に目が向きます。もちろん、どれも大切です。でも、今回の話は少し違いました。職場としては、本人自身が「いい職場」と感じている。それでも、家庭の状況が変われば、続けられなくなることがあります。

特に保育士は、ほかの家庭の子どもを預かる仕事です。保護者が働いている時間に園を開けなければいけません。そのため、早番や遅番があります。学校行事がある日だからといって、職員全員が簡単に休めるわけでもありません。それは保育という仕事の構造上、簡単には変えられない部分もあるでしょう。

ただ、「保育士自身も、自分の子どもの親である」という当たり前のことを、改めて考えさせられました。

12年間のうちに、連絡帳は大きく変わった

一方で、働いていた12年間の中で、仕事のやり方はかなり変わっています。

この園では、勤務3年目ごろから「キッズリー」というアプリを導入しました。

欠席連絡。
保護者からの連絡。
けがなどのちょっとした報告。
おむつがなくなりそうだという連絡。
写真付きの園での様子。

こうしたやり取りが、少しずつアプリに移っていきました。導入当初は、戸惑いもあったそうです。年配の先生から、「次はどこを押すの」「文章がこんなふうになったけれど、どうしたらいいの」と聞かれる。

若い先生が自分の仕事をしながら、使い方を教えることもありました。それでも、この園では、「またやってるね」と笑いながら助け合える雰囲気があったそうです。

本人は、「導入されて良かったという気持ちのほうが大きかった」と話していました。

25人分の連絡帳が、2〜3時間から1時間未満に

ICT導入の効果が最も分かりやすかったのが、連絡帳です。多いときには、一人で25人ほどの子どもを見ていたそうです。手書きで25人分の連絡帳を書く。一人ずつその日の様子を思い出しながら、文章を考える。本人によると、それだけで2〜3時間ほどかかることがありました。

行事のあった日などは、家に持ち帰って書き、翌日に渡せるようにすることもあったそうです。それがアプリになってからは、「1時間もしないで終わった」といいます。文章をコピーできます。文字を打つほうが、手書きより早い。それだけでも、大きな違いです。AIのような新しい技術でなくても、単純に「手書きをやめる」だけで減らせる負担はまだあります。

ただ、デジタル化にも「運用」の問題があった

興味深かったのは、アプリそのものには比較的すぐ慣れた一方で、「使い方のルール」をそろえるまでには半年から1年ほどかかったという話です。

ある先生は毎週投稿する。別の先生はあまり投稿しない。一人の子どもの写真をたくさん載せる先生もいれば、クラス全体の写真が中心の先生もいる。写真の枚数にもばらつきがある。ツールを入れたからといって、すぐに園全体の運用が整うわけではありません。

何をどのくらい投稿するのか。
誰が担当するのか。
どこまで統一するのか。

こうしたルールを作る時間が必要でした。

ICT導入というと、「システムを契約すること」に目が向きます。でも実際には、導入後の運用をどう整えるかのほうが大変なのかもしれません。

AIは「考える代わり」ではなく、言葉に詰まったときに使った

この方は、ChatGPTやGeminiも日常的に使っています。保育現場でも使った経験がありました。年度末のクラスだよりでは、一年間を振り返りながら、一人ひとりに向けた文章を書くことがあります。人数が多ければ、当然文章も増えます。

しかも、「同じ言葉ばかりにならないようにしたい」という難しさがあります。そこで、「この子はこういう特徴がある」というキーワードをAIに入れて、文章を考えてもらう。

同じ表現が続いたときには、「この言葉の別の言い方は何?」と聞く。そういう使い方をしていたそうです。全部AIに任せるというより、「自分の中にあるものを文章にする手助け」として使っています。これは、現場でのAI活用を考えるうえで分かりやすい例だと思います。

でも、AIを使っていることはあまり話さない

職場全体では、AI活用が広がっていたわけではありません。お楽しみ会で、自分の顔をAIでイラストにしてTシャツにする。そんな楽しい使い方はあったそうです。一方で、書類作成などにAIを使っているという話は、あまり共有されていませんでした。

本人の感覚では、30代以下の先生は使っている人もいる。でも、40代以上になると、「これまで自分で考えてきた」という感覚が強い人もいる。だから、若い先生もあえて口に出さない。そんな雰囲気もあったそうです。AIを使えるかどうかより、「使っていると言える職場か」という問題もあるのでしょう。

SNSをやらなかった理由は「必要がなかったから」

今回、もう一つ面白かった話があります。この園は、InstagramなどのSNS運用をしていませんでした。理由はシンプルです。「やらなくても園児が集まるから」です。

毎年、定員を超えるほど希望者がいる人気の園でした。だから、新たにSNSを運用する必要性がなかった。しかもSNSを始めれば、「誰が投稿するのか」という仕事が増えます。

事務所の先生ができないなら、若い先生に任せることになるかもしれない。本人は、それについて、「余計な仕事だと思う」と話していました。これはかなり重要だと思います。

今は、「保育園もSNSをやったほうがいい」「Instagramで園の魅力を発信したほうがいい」という話も多くあります。でも、必要がないなら、やらない。目的がない仕事を増やさない。これも立派な業務改善です。

家で働きたいと思い、Webデザインを学んだ

退職を考える中で、この方は別の準備もしていました。「家でできる仕事がしたい」と思い、オンラインのWebデザインスクールに通ったそうです。

フルタイムで保育士として働きながら、子育てもする。時間に余裕がある生活ではありません。それでも、少しずつ学んでいました。

退職後すぐに完全な在宅ワークになったわけではなく、現在は別業種でパートとして働く予定だそうです。それでも、「保育士しかできない」と決めつけず、違う働き方を探している。ここにも今回のインタビューらしさを感じました。

保育士を辞めることは、保育という仕事を否定することではありません。人生の状況に合わせて、働き方を変える。それだけのことなのかもしれません。

最後の年、年少15人を一人で見ていた

インタビューの最後に、「保育業界がもっとこうなったらいい、と思うことはありますか」と聞きました。そこで出てきたのが、人員配置の話でした。

最後の年、この方は年少児15人を一人で担当していました。その中には、支援を必要とする子も一人いました。本人の説明では、配置基準上は問題ありません。ただ、その子に一人の補助職員をつけられるほどの予算はなかったそうです。同じ学年の別クラスでは、より支援が必要な子がいるため補助の先生が配置されていました。その先生たちが余裕のあるときに、自分のクラスを助けに来てくれることもありました。

そのとき本人は、「すごく楽だった」と感じたそうです。普段は、支援の必要な一人の子を追いかけながら、残り14人を見る。その子が保育室から出てしまえば、「ちょっと待っていて」とほかの14人に伝え、探しに行く。そんな状況もありました。

この話は、文字だけでも怖さがあります。先生が頑張れば何とかなる。配置基準上は問題ない。それで終わらせていいのか。考えさせられました。

ICTで2時間減らせても、一人で15人を見る現実は変わらない

今回の話では、ICTの効果がかなりはっきり出ていました。25人分の連絡帳が、2〜3時間から1時間未満になった。これは大きな変化です。AIも、文章を考える補助として使える。業務改善できる部分は、まだたくさんあると思います。

でも、それですべてが解決するわけではありません。連絡帳が早く終わっても、一人で15人を見る状況は残ります。AIが文章を作れても、子どもが保育室から出てしまったときに追いかけてくれるわけではありません。そして、仕事が効率化されても、「自分の子どもの入学式に出られるか」という働き方の問題は別に残ります。ここを混同してはいけないのだと思います。

保育士が長く働ける条件は、一つではない

今回の話を聞いて、「保育士が辞めない職場を作るには、何を改善すればいいのか」という問い自体が、少し単純すぎるのかもしれないと思いました。

ICTを入れる。
AIを使う。
給与を上げる。
人間関係を良くする。
人を増やす。
休みを取りやすくする。
全部必要でしょう。

でも、人によって必要なものは違います。20代と30代でも違う。独身のときと、子どもが生まれたあとでも違う。子どもが保育園に通っている時期と、小学校に上がったあとでも違います。職場が変わらなくても、働く人の人生は変わっていきます。

だから、「この園は働きやすいから大丈夫」ではなく、「その人が今も働き続けられる環境になっているか」を見続ける必要があるのでしょう。

今回お話を聞いた方は、園そのものを嫌いになって辞めたわけではありません。むしろ、いい職場だったと話していました。それでも、自分の子どもの節目に立ち会える働き方を選びました。

この話から、「保育士自身の生活を守りながら働ける保育現場とは、どんな場所なのか」という新しい問いが見えてきました。

「保育園・幼稚園・子ども園の現場100人インタビュー」で、引き続き現場の声を聞いていきたいと思います。


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