
保護者が安心して仕事に行けるように、子どもを預かる。そのために保育士が働いています。では、その保育士自身が親になったとき、同じように子育てと仕事を両立できているのでしょうか。
今回の「保育園・幼稚園・子ども園の現場100人インタビュー」でお話を聞いたのは、幼稚園や保育園で働いた経験を持ち、2人目のお子さんの出産を前に退職した方です。
本人は、保育という仕事そのものには大きなやりがいを感じていました。それでも職場を離れました。きっかけは、「育休から復帰したら、時短勤務にしたい」と相談したことでした。
1人目の子育てをしながら、フルタイムで働いていた
1人目のお子さんを育てながら、約3年間働いていました。夫も仕事が忙しく、家庭ではほぼワンオペに近い状態だったそうです。それでもフルタイムの正社員として働いていました。そして2人目を妊娠しました。1人目の子育てと仕事を両立してきたからこそ、「このまま2人を育てながらフルタイムで働くのは厳しい」と感じました。
そこで、2人目の育休から復帰するときには、正社員のまま時短勤務にしたいと職場へ相談しました。当初は、「正社員のまま時短勤務を利用できる」という話だったそうです。制度としては使える。本人も、その前提で復帰を考えていました。ところが、実際には簡単ではありませんでした。
「みんな時短になったら、保育が回らない」
この園では、時短勤務の制度が導入されたばかりでした。前例がほとんどありません。さらに、同じ時期に産休に入る職員がほかにも2人いました。
そこで上層部から出てきたのが、「全員が時短勤務になったら、保育が回らない」という反応でした。園側からすれば、人員配置の問題があります。夕方まで保育は続きます。早く帰る職員が増えれば、その時間帯を誰かが埋めなければいけません。簡単な問題ではないでしょう。
ただ、本人にとっては、「利用できる制度だと思っていたのに、実際に使おうとしたら歓迎されなかった」という経験になりました。次第に、「自分から辞めると言うのを待たれているように感じた」といいます。本人はそれを、マタニティハラスメントに近い状態だったと振り返っていました。そして最終的に、産休・育休から復職するのではなく、退職することを選びました。
子育てを支える職場なのに
この話を聞いて、一番引っかかったのはここでした。
保育園・幼稚園・こども園は、子どもの育ちを支え、子育てをする家庭を支える場所です。でも、その保育園・幼稚園・子ども園で働く職員が子どもを産み、「子育てと両立するために勤務時間を短くしたい」と希望すると、現場が回らなくなる。これは、かなり難しい問題です。
園側だけを責めれば解決する話でもありません。人員に余裕がなければ、誰かが早く帰ることで、残る先生の負担が増えます。だから現場から反発が出ることもあるでしょう。
でも、「制度はあるけれど、実際には使いにくい」状態では、結局その制度が機能していません。働く保護者を支える仕事だからこそ、そこで働く人の子育ても支えられる環境であってほしい。今回の話から、そんな問いが出てきました。
保育という仕事自体は好きだった
退職したと聞くと、「保育の仕事が嫌になったのかな」と思うかもしれません。でも、そうではありませんでした。事前アンケートでも、仕事そのものについては満足していると答えています。理由はシンプルです。「子どもが好きだから」です。
我が子だけではなく、ほかの家庭の子どもの成長も見守れる。できなかったことが、できるようになる。昨日とは違う姿を見ることができる。そこには大きなやりがいを感じていました。
つまり今回の退職は、「保育が嫌だったから辞めた」という話ではありません。好きな仕事でも、働き方が合わなくなれば続けられない。ここはかなり重要だと思います。
以前の幼稚園は、かなり働きやすかった
本人には、結婚前に勤めていた幼稚園での勤務経験もあります。その園については、「人間関係も職場環境もかなり良かった」と話していました。退職した理由も、職場への不満ではなく、結婚に伴う引っ越しでした。
そのため、どうしても直近の保育園と比べてしまったそうです。直近の園では、かなり細かなルールがありました。ドアをノックする回数。職員の髪色。アクセサリー。時計。お中元やお歳暮。こうした部分まで細かく決められていたといいます。一つひとつだけを見れば、小さなことかもしれません。でも、本人が強く感じていたのは、「職員が大切にされていない」ということでした。
ルールが多いことより、「誰のためのルールなのか」
ルールそのものが悪いわけではありません。子どもの安全を守るためのルールは必要です。保護者から信頼されるための身だしなみも必要でしょう。ただ、「なぜそのルールがあるのか」が分からなくなると、働く人にとっては負担になります。
本人の話では、経営側の支出と職員への還元のバランスにも不満がありました。キャリアアップ研修に関連する手当の申請を止められたこともあったそうです。本人が感じていたのは、「職員に厳しい一方で、職員への還元には消極的」という構造でした。時短勤務の問題も、単独の出来事ではなかったのでしょう。それまで積み重なっていた違和感の先に、退職という判断があったのだと思います。
デジタル化は、かなり進んでいた
一方で、この園では業務のデジタル化は比較的進んでいました。パソコンを使って書類を作ることが多く、本人はタイピングが得意だったため、「かなり楽だった」と感じていたそうです。
以前働いていた幼稚園では、書類や行事案内などに手書きが多く、時間を取られていました。そこから考えると、パソコンで作業できる環境はかなり助かっていました。ただし、デジタル化していても時間がかかる仕事は残ります。その一つが、3歳未満児の連絡帳でした。
デジタルでも「人数分の文章を考える仕事」は残る
連絡帳自体はパソコンで入力できます。でも、文章を考える必要はあります。子ども一人ひとりについて、今日何をしていたのか。どんな様子だったのか。保護者にどう伝えるのか。人数分、文章を作ります。入力が手書きからパソコンに変わっても、「何を書くか考える時間」そのものは残ります。
園では、作った文章を主任に見せ、確認してもらう運用もありました。だから本人は、「文章作成を短くできるなら、AIを使ってみたい」と話しています。AIで全部作るのではなく、文章をまとめる。表現を整える。誤字を確認する。こうした補助として使いたいという考えです。
「AIに任せればいい」ではない
今回、保育士向けのAIツールについても意見を聞きました。
月案。週案。お便り。こうした文章をAIで作る仕組みです。
本人は、「かなり便利だと思う」と評価していました。特に、文章作成が苦手な先生にとっては助かるのではないかと話しています。ただし、全面的にAIへ任せる考えではありませんでした。
一人ひとりの子どもの成長を見ること。その子らしさを理解すること。人間味のある保育をすること。そこまでAIに任せるべきではない。AIで減らせる仕事は減らしながら、「人が見るべきところは、人が見る」という考えです。
ここは、この100人インタビューで何度も出てきている論点でもあります。
AIを使うか、使わないか。ではなく、「何をAIに任せて、何を人がやるのか」を決めることが必要なのでしょう。
「保育士しかできない」と思ってしまう
退職後、本人は新しい働き方を探しています。保育士に戻りたい気持ちもあります。でも、できればこれまでの経験を活かしながら、在宅で仕事をしたい。そこでクラウドワークスに登録し、保育や子育てに関する記事を書く仕事も始めました。
本人が話していたのが、「保育士を続けていると、保育しかできないと思ってしまう」という感覚です。これは、これまでのインタビューでも出てきた話です。保育という専門職で長く働くほど、「自分にはこれしかない」と思いやすくなる。転職しようとしても、自分の経験をほかの仕事にどうつなげればいいか分からない。結局、また保育の仕事を探す。そんな感覚です。でも本当に、そうなのでしょうか。
保育士の経験は、保育園の中だけのものなのか
保育士は日々、多くのことをしています。
- 子どもの様子を観察する。
- 保護者に伝わる文章を書く。
- 相手の話を聞く。
- 複数の仕事を同時に進める。
- 急なトラブルに対応する。
- 行事を企画する。
- 人間関係を調整する。
これらは、保育園の外でも使えるスキルです。
今回の方も、すでにライティングという形で、自分の経験を別の場所に持ち出し始めています。保育園で働き続けることだけが、「保育士の経験を生かす」方法ではないのかもしれません。一度外に出ることで、また違う形で保育とつながることもできます。
身だしなみや生活まで含めて、働き方を選びたい
本人の話の中では、「身だしなみやプライベートも充実させながら働きたい」という思いも出てきました。これも、一見すると保育とは関係ない話に見えます。でも、長く働くことを考えるなら重要です。どんな服装で働きたいのか。どんな髪型をしたいのか。家族とどんな時間を過ごしたいのか。自宅で働きたいのか。子どもが小さい間だけ働き方を変えたいのか。
人生には、仕事以外にもたくさんの要素があります。「保育士なのだからこうあるべき」という型に、人の人生を合わせ続けるのは難しいでしょう。
人手不足を「本人の覚悟」の問題にしない
今回の話で、一番考えさせられたのは、やはり時短勤務の話でした。
園側からすれば、「みんな時短になったら現場が回らない」という心配があります。それ自体は理解できます。でも、だからといって、「フルタイムで働けないなら辞めてもらうしかない」となれば、経験を積んだ保育士ほど、出産や子育てをきっかけに現場から離れていきます。そしてまた、「保育士が足りない」という話になります。
これは個人の覚悟の問題ではなく、仕組みの問題なのだと思います。時短の人がいても回る配置。産休や育休が重なっても回る体制。働き方が変わっても経験を生かせる役割。そういう選択肢を作らなければ、「子どもを産んでも働き続けてください」とは言えません。
子育てを支える場所だからこそ
今回のインタビューを聞きながら、何度も頭に浮かんだことがあります。保育園・幼稚園・子ども園は、子どもの育ちを支え、子育てをする家庭を支える場所です。それなら、そこで働く人が親になったときにも、「子育てしながら働ける場所」であってほしい。
もちろん、簡単ではありません。保育には最低限必要な人数があります。朝も夕方も子どもがいます。保護者が仕事をしている時間に園を閉めるわけにもいきません。
だからこそ、個人の頑張りではなく、仕組みが必要です。そしてAIやデジタル化も、本来はそのために使うものなのかもしれません。連絡帳を早く書く。書類を短時間で作る。確認作業を減らす。そうして生まれた時間を、「時短勤務の人がいても回る余裕」につなげることはできないか。
今回の話を聞いて、AI活用について考えていたはずが、最後にはもっと大きな問いに戻ってきました。「保育士が、自分自身の生活や子育ても大切にしながら働き続けられる現場とは、どんな場所なのか」保育の仕事が好きなのに、働き方を理由に離れる人を減らすために何ができるのか。
「保育園・幼稚園・子ども園の現場100人インタビュー」で、引き続き現場の声を聞きながら考えていきたいと思います。
\ LINE公式アカウントで配信中 💬/
📢 無料セミナー開催中
最新のセミナー情報はLINEからご確認いただけます。
▼ 友だち追加はこちらから
https://line.me/R/ti/p/@607bbmym?oat__id=4783738