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保育園・幼稚園・子ども園の現場100人インタビュー vo.3 〜「もう保育士にはならない」と辞めた。それでも現場に戻りたくなった理由〜

保育士の仕事について調べると、「大変」という言葉を目にすることが多くあります。

書類が多い。人手が足りない。給与や待遇の問題がある。人間関係が難しい。
そして近年は、不適切保育や虐待などのニュースも目立つようになりました。

もちろん、こうした課題から目を背けるべきではありません。でも、それだけで保育という仕事を語っていいのでしょうか。

今回の「保育園・幼稚園・子ども園の現場100人インタビュー」でお話を聞いたのは、保育士として約10年間働き、主任も経験した方です。現在は現場を離れ、大学で保育士を目指す学生たちと関わる仕事をしています。

退職するときには、「もう絶対に次は保育士にはならない」と思っていたそうです。ところが、現場を離れてみると、また戻りたくなったといいます。なぜなのでしょうか。

話を聞いていくと、保育の大変さと、それでもこの仕事を好きになる理由の両方が見えてきました。

「もう一回、区切りをつけよう」と思った

保育士として約10年働き、主任も経験しました。退職するとき、次の仕事を決めていたわけではありません。10年働いたことを一つの区切りとして、いったん現場を離れようと考えたそうです。

いろいろなことを経験し、後輩たちに任せてもいいと思えるようになった。本人の中では、一度やり切ったという感覚もあったようです。だから退職するときは、「もう絶対に次は保育士にはならない」と思っていました。

まずはゆっくりしよう。次は違う仕事をしてみよう。そんな気持ちで現場を離れました。でも、離れてみると気持ちが変わりました。「やっぱり、離れれば現場に戻りたくて」自分でも、「やっぱり好きみたいです」と話していました。

一度は「もうやらない」と思った仕事に、なぜ戻りたくなるのか。
この話が、今回のインタビューで強く印象に残りました。

現場では、仕事を減らすための工夫もしてきた

もちろん、保育士時代が楽だったわけではありません。勤務していたのは、50年以上続く公設民営の保育園でした。市のルールもあり、デジタル化は簡単には進みませんでした。午睡チェックも、お帳面も手書きでした。パソコンも各クラスに1台あるわけではありません。デジタル化しようとしても、パソコンを使うために事務所まで行かなければならず、場合によっては職員同士でパソコンを使うタイミングが重なります。

そのため、「それなら部屋の隅でさっと書ける手書きのほうがいい」という先生がいるのも自然なことでした。そこで、パソコンでも手書きでも、好きな方法を選べるようにしました。一見すると柔軟な方法です。

ところが、主任だった本人には別の負担が生まれます。紙で提出されたものを、最終的にデータ化する必要があったのです。「データでもらっていたら、コピーして使えたのに」と思いながら、自分で入力していたそうです。便利にするための仕組みが、別の人の仕事を増やしてしまう。

デジタル化を考えるときには、こういう現実も見なければいけないのでしょう。

残業を減らしたのは、新しいシステムだけではなかった

興味深かったのは、働いていた10年の間に、残業がかなり減ったという話です。新人のころは、残業するのが当たり前でした。ところが、少しずつ働き方が変わり、退職するころには残業はほとんどなくなっていたそうです。

では、何が変わったのでしょうか。

人員が増え、休憩を取ったり、その時間を使って事務作業を進めたりできるようになったこともあります。それ以上に印象的だったのが、「そもそも書くものを減らした」という話でした。

月案にも書いてある。別の書類にも同じようなことを書いている。それなら、一つにまとめてもいいのではないか。「重なっているところがあるよね」「ここはもういらないのではないか」そんな話を園の先生たちとしながら、項目そのものを減らしていったそうです。

業務改善というと、AIや新しいシステムを導入する話になりがちです。でも、その前に、「この仕事は本当に必要なのか」を考える。それだけでも、現場は変えられるのだと思います。

AIを使えば楽になる。でも、それだけでは足りない

現在、この方は大学で保育士を目指す学生たちと接しています。そこで新しく出てきたのが、AIの問題です。学生たちにとってChatGPTは、すでに身近な存在になっています。

レポートを見て、「これは本当に本人が書いたのかな」と思うこともあるそうです。大学の先生たちの考え方もさまざまです。内容を理解したうえで、自分の言葉に書き換えればいい。自分で説明できるならいい。そのまま使うこと自体は止めないものの、それでは本人の身にならないと考える先生もいる。完全に禁止するのではなく、どう使うかを考えている段階だといいます。

本人もAIを否定していません。むしろ、「使いこなせば保育士の負担は減る」と考えています。ただし、条件があります。「子ども一人ひとりをちゃんと見たうえでAIを使うこと」です。

新人時代は、本の文章をそのまま使って怒られた

この話を聞いていて印象に残ったのが、本人の新人時代の経験です。新人のころ、カリキュラムをどう書けばいいのか分からなかった。そこで保育の本をたくさん買い、「本から全部丸パクリするぐらい」参考にしていたそうです。

すると先輩から、「自分のクラスの子どもの実態と合っていない」と指摘されました。本人としては、「でも、書けないから……」という状態です。そこから先輩に教えてもらいながら、少しずつ書けるようになりました。

この経験は、今のAIにも近いように思います。昔は本でした。その後、インターネットやInstagram、YouTubeが使われるようになりました。そして今はAIがあります。

道具は変わっても、「参考にしたものを、そのまま目の前の子どもに当てはめていいのか」という問題は変わっていません。AIだから考えなくなるのではなく、どう考えながら使うかを教える必要があるのでしょう。

本人も、「正しく、自分で理解を持って、責任が取れる使い方をしていく」という考えを話していました。園としてルールやマニュアルを作り、AIの使い方を共有することも必要ではないかといいます。

AIを禁止するのでもない。AIに全部任せるのでもない。この間をどう作っていくのか。これから保育士になる学生たちと接しているからこそ、感じている課題なのだと思います。

今は「保育士になる前」の学生を見ている

現場を離れた現在、本人の視点にも変化がありました。実習前の学生と接すると、「自分もこういう気持ちだったんだな」と気づくそうです。学生からは、「実習がしんどかった」「実習記録が大変だった」という声も聞きます。

実際の保育現場を見て、「自分は保育士になりたくない」と感じてしまう学生もいます。一方で、本人が現在働いている養成校でも、学生数が減っていることを実感しているそうです。本人が学生だったころと比べても、大きく減っています。ただでさえ保育士不足が課題になっている中で、目指す人まで減っていく。

だから今は、「この子たちが、いかに保育士や幼児教育の道に期待を持って進んでくれるか」を考えるようになったといいます。現場にいたころとは、まったく違う視点です。

「保育は大変」だけでは、次の人が来なくなる

インタビューの最後に、「保育業界がもっと良くなるために、何が必要だと思いますか」と聞きました。そこで出てきたのが、「保育の魅力をもっと伝えたい」という話でした。

SNSやニュースでは、不適切保育や虐待などが大きく取り上げられます。もちろん、それらを隠すべきではありません。ただ、それだけを見ていると、「保育士は大変そう」「怖い仕事なのではないか」という印象ばかりが強くなります。

一方で、園のInstagramを見ると、職員のルーティンやエプロン紹介などが発信されている。本人は、そこにも少し違和感があると話していました。保育士を目指す学生が本当に知りたいのは、それだけではないのではないか。

子どもと関わること。保護者と関わること。職員同士で関わること。対人援助の仕事だから、大変なことはたくさんある。でも、その分だけ、この仕事でしか得られないものもある。そこをもっと伝えられないか。

そんな話でした。

「先生!」と戻ってきてくれる

では、本人にとって、保育士の何がそんなに良かったのでしょうか。最後に聞いてみました。

卒園した子どもたちが、園に帰ってきてくれる。自分の顔を見て、「先生!」と呼んでくれる。その子たちの卒業を見届けられる。中には、「先生になりたい」と言って戻ってきてくれる子もいる。そして毎朝、自分の顔を見た子どもが、「おはよう」と言ってくれる。それだけで、「今日も頑張ろう」と思えたそうです。

本人は、それを「人とのつながり」と表現していました。保育は、対人援助の仕事です。だからこそ、人との関係に悩むこともあるでしょう。書類もあります。業務も多いです。改善しなければいけないことも、まだたくさんあります。それでも、人と関わる仕事だからこそ生まれる喜びもあります。

「大変さをなくすこと」と「魅力を伝えること」の両方が必要なのかもしれない

今回の話を聞くまで、保育業界を良くすることを考えるとき、どうしても「負担をどう減らすか」に意識が向いていました。

書類を減らす。
デジタル化する。
AIを使う。
残業を減らす。

もちろん、どれも必要でしょう。

でも、それだけでは「保育士になりたい人を増やす」という問題までは解決できないのかもしれません。仕事の大変さを減らすこと。そして、その仕事にしかない魅力を伝えること。両方が必要です。

「もう絶対に保育士にはならない」そう思って現場を離れた人が、離れてみたらまた戻りたくなった。そこには、効率化だけでは説明できない何かがあります。

子どもから「先生」と呼ばれること。卒園した子が戻ってきてくれること。その子が大きくなって、「先生になりたい」と言ってくれること。

こういう話は、業務負担や待遇の数字だけを見ていても出てきません。保育の課題をきちんと改善しながら、保育の魅力もきちんと伝える。

では、その魅力をこれから保育士を目指す人たちに、どう届けていけばいいのでしょうか。
「保育園・幼稚園・子ども園の現場100人インタビュー」で現場の声を聞きながら、引き続き考えていきたいと思います。


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