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保育園・幼稚園・子ども園の現場100人インタビュー vo5. 〜便利な仕組みがあっても、使えるとは限らない。小規模園の施設長に聞いた、ICT・AI活用の現実〜

「便利なサービスがあるなら、導入すればいい」と思ってしまうことがあります。
連絡帳をアプリにする。出欠確認をデジタル化する。週案や年間計画をパソコンで作る。AIを使って文章作成を助けてもらう。技術だけを見れば、できることはかなり増えています。

でも、実際の現場では、「便利なのは分かっている。でも、使えない」という状況もあります。

今回の「保育園・幼稚園・子ども園の現場100人インタビュー」でお話を聞いたのは、神奈川県の小規模な認可外保育園で施設長を務めていた方です。現在は産休・育休中で、育休後は復職を予定しています。現場ではコドモンを使い、保護者連絡や写真販売など、一部の業務はデジタル化されています。一方で、週案、年間計画、出席簿などは、今も手書きです。

なぜ、便利なシステムがあるのに、すべてデジタル化できないのでしょうか。話を聞いていくと、ツールの問題だけではない、園の規模や予算、行政ルールの壁が見えてきました。

コドモンは使っている。でも、全部ではない

現在の園では、コドモンを使っています。

保護者からの連絡。写真販売。日々の様子の共有。身体測定の記録。こうした業務では、すでにデジタル化が進んでいます。ただし、使っているのは基本的に無料の範囲です。有料オプションを追加すれば、もっと便利になる機能もあります。でも、小規模な認可外園では、簡単に費用を増やせません。

ここは、かなり現実的な問題です。「便利だから入れる」だけでは決められません。園児数が多い大規模園と、小規模園では、一つのシステムに払える金額も違います。だからこそ、「必要なのは分かっているけれど、予算的に難しい」ということが起きます。

出欠連絡はデジタル。でも、出席簿は手書き

今回、特に印象に残ったのが出席管理の話です。保護者からの欠席連絡は、アプリで届きます。ここまではデジタルです。でも、その情報が月ごとの出席簿としてそのまま残るわけではありません。そのため、毎月あらためて紙の出席簿を作り、「今日は出席」「今日は欠席」と手書きで丸をつけています。

情報はすでにデジタルで存在しています。それでも、最後は紙に転記する。ここには、かなりの二度手間があります。こういう話を聞くと、「デジタル化しているか、していないか」という二択では現場を捉えられないと思います。

一部だけデジタルになっていても、最後に紙が残れば、作業は残ります。本当に業務負担を減らすには、業務全体の流れを見なければいけないのでしょう。

週案に30分。それが休憩時間から消えていく

週案も手書きです。本やインターネットで文章を探しながら、一から作っています。作成にかかる時間は、30分ほど。数字だけを見ると、「30分なら、それほど大きくないのでは」と思うかもしれません。

でも、その30分をどこから出しているかが問題です。

午睡後の休憩時間は約1時間。その時間の中で、制作物の準備などもします。

つまり、週案に30分使えば、休憩時間の半分が消えます。本来休むための時間に、書類を書く。しかも、毎週です。一回あたりの時間は小さく見えても、積み重なるとかなり大きな負担になります。

「毎日同じところは省略したい」でも、監査で認められない

週案には、毎日ほとんど変わらない内容があります。
登園。食事。午睡。基本的な一日の流れです。

本人としては、「変わらない部分は固定化して、主活動のところだけ書きたい」と考えています。園庭がないため、公園遊びなど、その日の活動部分だけを追記する。それなら、書く量はかなり減ります。

ところが、自治体の監査では認められないと言われたそうです。ここも、現場側だけでは変えられない問題です。先生たちが、「この書類はもっと簡略化できる」と思っていても、行政側の基準が変わらなければ、そのまま続けなければいけません。本人は、東京都では比較的簡略化されていると聞く一方で、神奈川県は監査が厳しい印象を持っていると話していました。同じ保育の仕事でも、自治体によって求められる書類が違う。これは、かなり興味深い話です。

「効率化したい」と思っても、園だけでは決められない

保育現場の業務改善を考えるとき、どうしても園側に目が向きます。園長が決めればいい。法人が導入すればいい。現場が新しいものを使えばいい。でも、実際にはそれだけではありません。予算があります。行政のルールがあります。監査があります。情報管理の問題もあります。園側が、「もっと効率化したい」と思っていても、変えられない仕事があります。

今回の話を聞いて、「なぜまだ手書きなのか」と外から簡単に言うのは危険だと改めて感じました。そこには、現場なりの理由があります。

制作物も、毎月新しく考えている

負担になっているのは、書類だけではありません。制作物もすべて手作りです。最近は本よりも、InstagramやTikTokを参考にすることが多いそうです。

0〜2歳児なら、型紙を準備する。折り紙をちぎって貼れるようにする。
3〜5歳児なら、切る、折るところからできるよう、年齢に合わせて準備する。

毎月、新しい制作を考えています。前年と同じものを使えば、時間は減らせます。でも、それもしづらい理由があります。兄弟児がいる家庭から、「また同じ制作だ」と思われるかもしれない。

毎月きちんと工夫していることも伝えたい。そして、子どもの年齢や発達に合わせたい。だから、新しく考えています。ここにも、「効率化だけでは割り切れない仕事」があります。

保育では、ただ同じものを繰り返せばいいわけではありません。子どもの成長を見る仕事だからこそ、毎年変える意味もあります。

幼稚園では、32人を一人で見ていた

この方は、以前は幼稚園で働いていました。当時は、一人で32人のクラスを担当していたそうです。
制作物の準備。書類。行事。残業。仕事量は、今の保育園より圧倒的に多かったと話しています。

幼稚園から保育園へ転職した理由の一つも、働き方でした。結婚と引っ越しをきっかけに、「今のままの働き方を続けられるのか」と考えました。将来自分に子どもができたとき、運動会や発表会に追われる働き方を続けるのは難しい。そして、自分自身が0〜1歳児保育を経験しておきたい。そんな思いもあり、条件の良かった神奈川県の保育園へ転職しました。

楽になった。でも、幼稚園のほうが楽しかった部分もある

実際に保育園へ移ると、残業は減りました。一方で、複数担任ならではの難しさもあります。自分一人で決められない。ほかの先生と考え方を調整しなければいけない。

幼稚園では、自分のクラスを持ち、運動会や発表会などの行事を通して、「子どもたちがここまで成長した」と感じられる楽しさがありました。

本人は、「幼稚園のほうが楽しかったと思う部分もある」と話しています。ここも面白いところです。仕事が楽になれば、それだけで満足度が上がるわけではありません。大変だったからこそ得られたやりがいもある。この両方があるのだと思います。

施設長になっても、子どものすぐそばにいる

現在の園は小規模です。施設長のデスクも、子どもたちがいるフロアの中にあります。そのため、施設長になっても、「事務だけをする人」にはなりません。子どもの対応に入る。先生をフォローする。その合間に事務作業をする。小規模園ならではの距離の近さがあります。

本人は、施設長になってからも子どもと密に関われる環境にいました。そして現在は産休・育休中です。施設長という立場で産休・育休を取得し、復職する予定です。これも一つの「続けられる働き方」だと思います。

役職があるから休めない。管理職だから出産したら辞める。そうではなく、引き継いで、また戻る。こうした働き方が普通になれば、保育業界で長く働ける人も増えるのかもしれません。

ChatGPTは、すでに日常の相談相手

AIについて聞くと、ChatGPTを日常的に使っていました。
分からないことを聞く。疑問を調べる。相談する。ほぼ毎日のように使っているそうです。

本人は、「親身に寄り添ってくれて心強い」と感じています。一方で、「全部信じていいのか分からない」という不安も持っています。この感覚は、かなり自然だと思います。

AIは便利です。でも、正しいとは限りません。特に保育では、子どもや保護者に関する情報を扱います。だからこそ、「便利だから使う」だけではなく、「どこまで使うか」を考える必要があります。

復職したら、文章作成にAIを使いたい

現場にいたころは、まだ仕事でAIを使っていませんでした。でも、復職後は使ってみたいと話しています。
連絡帳。お便り。誤字のチェック。文章の修正。

特に負担を感じていたのが、「毎日似たような公園遊びを、違う文章で伝えること」でした。やっていることは似ています。でも、保護者に送る文章を毎日まったく同じにはできません。

そこで、「文章のバリエーションを出してほしい」というニーズがあります。AIが文章を一から考えるというより、「言い換えを手伝ってもらう」という使い方です。これは、かなり現実的なAI活用だと思います。

AIがあれば、週案の30分はなくせるかもしれない

今回、開発中の保育専用AIについても見てもらいました。

LINE上で使い、選択肢を選ぶだけで、週案。お便り。画像。こうしたものを生成できる仕組みです。本人は、かなり前向きな反応でした。毎週30分かけていた週案。毎日の連絡帳。文章を考える時間。ここを短くできれば、現場にとっては助かります。

ただ、今回の話を聞いていると、「AIさえ入れれば解決する」とは思えません。週案をAIで作れても、行政が認めなければ使えないかもしれません。便利な機能があっても、予算がなければ契約できないかもしれません。AIを使いたくても、園としてルールがなければ難しいこともあります。技術だけでは、現場は変わりません。

「使える技術」と「使える環境」は別物

今回のインタビューを聞いて、改めて感じたのがここです。今は、便利な技術がたくさんあります。
出席管理を自動化できます。週案も作れます。連絡帳も文章を考えてもらえます。制作物のアイデアもAIに相談できます。

でも、「できること」と「現場で使えること」は違います。
費用。園の規模。自治体のルール。監査。個人情報。職員の使い方。こうした条件がそろわなければ、便利な技術があっても使えません。

だから、保育現場のDXを考えるなら、「便利なサービスを作る」だけでは足りないのでしょう。
小さな園でも使える価格なのか。行政書類として認められるのか。現場の先生が無理なく使えるのか。そこまで考えて、初めて現場に届くのだと思います。

今回の話から、「便利な技術をどう作るか」ではなく、「便利な技術を、どうすれば現場で本当に使えるのか」という新しい問いが見えてきました。

引き続き、「保育園・幼稚園・子ども園の現場100人インタビュー」で、現場の声を聞いていきたいと思います。


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