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保育園・幼稚園・子ども園の現場100人インタビュー vo7. 〜若手保育士は、なぜAIを使っていることを隠したのか。転職先で見えた「使える職場」と「使えない職場」の違い〜

保育現場でAIを活用するには、何が必要なのでしょうか。ChatGPTの使い方を覚えること。便利なサービスを導入すること。職員向けの研修を行うこと。もちろん、どれも役に立つでしょう。

でも、今回のインタビューでは、それ以前の問題が見えてきました。「AIを使っていることを、職場で言えるかどうか」という問題です。

今回の「保育園・幼稚園・子ども園の現場100人インタビュー」でお話を聞いたのは、保育園や幼稚園で長く働き、現在は児童発達支援施設に勤務している方です。

以前の保育園では、若い先生が園長に知られないようにAIを使っていました。一方、現在の児童発達支援施設では、職員がChatGPTを堂々と活用しています。同じ保育・子ども支援の仕事でも、職場が変わると、ここまで違うのか。話を聞いていくと、AIの導入以前に考えるべき、職場の仕組みや人間関係が見えてきました。

園長に認めてもらえる文章が書けない

以前の保育園で、ある若い先生が書類作成に悩んでいたそうです。園長から文章表現について厳しく指導され、何度書き直しても、なかなか認めてもらえない。毎日のように、「どう書けばいいのだろう」と悩んでいました。

保育の仕事では、文章を書く機会がたくさんあります。

日々の記録。
月案や週案。
子どもの成長の記録。
保護者への連絡。

ただ文章として正しければいいわけではありません。園によって求められる書き方が違うこともあります。経験の浅い先生にとって、これは簡単な仕事ではないでしょう。その若い先生も、どうすればいいか分からなくなっていたそうです。そこで、誰にも言わずにAIを使い始めました。

急に文章が上達した理由は、AIだった

しばらくすると、その先生が書く文章が大きく変わりました。以前よりも分かりやすく、きれいにまとまるようになったのです。今回お話を聞いた方は、その変化に気づきました。「本を写したの?」そう尋ねると、若い先生は事情を話してくれました。

自分ではどうしようもなくなり、AIを使って文章を作っていたのです。実際に内容を見てみると、よくまとまっていました。本を調べながら一から文章を考えるよりも効率的で、時間の短縮にもつながっていたそうです。

そこで本人は、「正しく使えば、素晴らしいツールだ」と感じました。ただし、問題が一つありました。その若い先生は、AIを使っていることを園長には言えなかったのです。

園長は「渡した本のおかげ」だと思っていた

園長は、若い先生に文章の参考になる本を渡していました。そのため、急に文章が上達したことについても、「渡した本を読んで、書けるようになった」と思っていたそうです。

でも、実際にはAIを使っていました。若い先生は、AIを使ったことを責められるのが怖くて、黙っていたのです。

この話は、かなり印象に残りました。

AIを使って仕事が早くなった。
文章も改善された。
本人も助かっている。

それなのに、職場では使っていることを言えない。もちろん、AIが作った文章をそのまま使っていいとは限りません。実際の子どもの姿に合っているか、内容が正しいか、確認する必要があります。でも、今回の話では、その使い方を相談すること自体が難しかったのです。これでは、AIを正しく使うためのルールも作りにくいでしょう。

転職先では、ChatGPTを堂々と使っている

ところが、現在の児童発達支援施設では状況が大きく違います。施設全体でAIの活用が認められています。

ChatGPTを使って、子どもたちのための絵カードを作る。
お便りの文章を考える。
必要なものを作成して印刷する。

こうした使い方が、日常的に行われています。

絵カードは、子どもが一日の予定や活動の流れを視覚的に理解するために使うものです。言葉だけでは伝わりにくいことも、絵にすることで分かりやすくなる場合があります。その準備をAIが手伝っています。

以前の園では、AIを使っていることを隠していた。現在の施設では、職員が普通に使っている。この違いは、どこから生まれるのでしょうか。

AIに詳しい人がいるだけではなかった

現在の施設には、パソコンや事務業務を担当する職員が一人いるそうです。

その人がフォーマットを準備する。
必要なファイルを整理する。
ほかの職員が使いやすいように共有する。

こうした役割があることで、現場の先生たちも迷わず仕事を進められています。

これは、AIの活用だけに限った話ではありません。以前の保育園では、パソコンを導入したことで、かえって困ることもあったそうです。その理由を聞くと、デジタル化の難しさがよく分かりました。

パソコンを導入したら、仕事が見えなくなった

以前の保育園では、各クラスにパソコンが導入され、月案や週案などを少しずつデジタル化しようとしていました。

ところが、職員の中には、「手書きのほうがいい」という声もありました。単にパソコンが苦手だったからではありません。手書きの書類なら、机の上に広げてあるものを見るだけで、どこまで進んでいるか分かります。

ほかの先生も、「まだここまでしか終わっていないなら、手伝おうか」と声をかけやすい。でも、パソコンの場合は違います。画面に向かっている先生が、何をどこまで進めているのか、周囲からは分かりません。本人だけがファイルの場所を知っている。ほかの先生は、どこに保存されているか分からない。こうした状況が起きていました。

デジタル化によって、書類の修正は楽になりました。でも、仕事の進み具合や情報の共有は、以前より難しくなった部分もあったのです。

「手書きのほうが早い」には理由があった

以前の園では、パソコンの使い方が十分にマニュアル化されていませんでした。ある先生は、前の勤務先で使っていたUSBのフォーマットを持ってきて作業していました。ほかの先生は、どこに何が保存されているのか分かりません。

パソコンに慣れていない先生は、画面に向かっていても、なかなか仕事が進まない。その結果、「これなら手書きのほうが早い」という声が出ていました。

ここで考えたいのは、手書きとパソコンのどちらが優れているかではありません。「みんなで仕事を進める仕組みがあるか」ということです。

ファイルの保存場所が決まっている。
誰でも同じフォーマットを使える。
困ったときに相談できる。
進捗を共有できる。

こうした仕組みがなければ、パソコンを入れただけでは仕事は楽になりません。むしろ、現場の負担が増えることもあるのでしょう。

以前の幼稚園では、手書きとパソコンの役割が明確だった

この方は、以前に約8〜9年間、幼稚園で働いた経験もあります。そのころは、クラスだよりだけをパソコンで作り、それ以外の書類は基本的に手書きだったそうです。

今から考えると、かなりアナログな環境です。ただ、何をパソコンで作り、何を手書きにするのかが明確でした。そのため、運用そのものに大きな混乱は感じていなかったといいます。

もちろん、問題がなかったわけではありません。

パソコンは共有でした。
使いたくても順番が回ってこない。
若い先生が先輩に遠慮して使えない。

そんなこともありました。それでも、仕事の進め方は分かりやすかった。一方、最近の園では、デジタル化を進めようとする途中で、手書きとパソコンの役割が曖昧になっていました。新しい仕組みを入れるときには、古い仕組みをどう変えるのかまで考える必要があるのでしょう。

連絡帳は手書き、写真はアプリ。仕事が二重になっていた

保護者との連絡にも、同じ問題がありました。以前の保育園では、コドモンを無料の範囲で使っていました。行事や日々の出来事の写真などは、アプリで共有します。

一方で、その日の子どもの様子を伝える連絡帳は、毎日ノートに手書きしていました。つまり、手書きの連絡帳とアプリへの投稿を両方行っていたのです。

保護者からすれば、丁寧に情報を伝えてもらえる環境です。でも、先生の仕事は二つになります。本人も、「保護者対応としては手厚いけれど、保育側としては負担が大きい」と感じていました。

保護者へのサービスを増やすことと、職員の負担を減らすこと。この両立は、簡単ではありません。新しい仕組みを追加するときには、「何を新しく始めるか」だけでなく、「代わりに何をやめるか」も考える必要がありそうです。

発達支援を学ぶために、保育園を離れた

今回の方は、現在、児童発達支援施設で働いています。転職した理由にも、印象的な話がありました。長年保育の仕事を続ける中で、クラスに発達がゆっくりな子どもが増えてきたと感じていたそうです。その一方で、自分自身の仕事についても考えるようになりました。

おむつ交換など、日々の保育業務を繰り返しているだけでは、自分の専門性が広がらないのではないか。もっと新しいことを学びたい。そう考えるようになったといいます。

そこで選んだのが、発達支援の仕事でした。発達支援の専門的な知識や経験を身につければ、将来また保育の現場に戻ったときにも役立つ。そんな考えがあったそうです。保育園を離れることが、保育の仕事を諦めることとは限りません。別の場所で学び、専門性を高める。そういうキャリアの作り方もあるのでしょう。

難しいクラスを担当しても、評価が変わらない

転職の背景には、保育業界の評価に対する疑問もありました。本人は長年、「仕事ができる先生ほど、負担が偏りやすい」と感じていたそうです。

支援が必要な子どもが多いクラスを担当する。
対応が難しい子どもを複数受け持つ。
保護者とのやり取りも増える。

それでも、比較的落ち着いたクラスを担当する先生と、給与や評価が変わらないことがある。そうした状況に、不公平さを感じていました。もちろん、クラスの大変さを単純に比較することは難しいでしょう。目に見えにくい仕事もあります。ただ、負担の大きい仕事を引き受けた人が、適切に支えられているのか。その仕事を通して身につけた専門性が、評価されているのか。これは考える必要がある問題だと思います。

突然の雇用の変化が、次の働き方を考えるきっかけになった

本人が新しいスキルを学び始めた背景には、もう一つ出来事がありました。以前の園で赤字経営による代表交代があり、扶養内で働くパート職員が一斉に解雇されたそうです。その経験をきっかけに、「この先、どうやって働いていこうか」と考えるようになりました。

そこでオンラインスクールで学び始めました。

SNS運用。
AI活用。
動画編集。
ライティング。

保育以外の仕事にもつながるスキルです。

さらにクラウドワークスに登録し、保育士資格やこれまでの経験を生かせる仕事にも取り組んでいます。目指しているのは、単に副収入を得ることではありません。ライフステージが変わっても、働き続けられる力を身につけることです。

保育士の経験を、別の場所でも生かせるように

保育士として長く働いてきた人には、さまざまな経験があります。

子どもの発達を理解すること。
保護者と関係を築くこと。
子どもの様子を文章で伝えること。
活動を考えること。
相手に合わせて説明すること。

こうした経験は、園の外でも役立つ可能性があります。

今回の方は、発達支援の仕事を通して専門性を広げています。同時に、SNSやライティングなども学んでいます。保育の経験を土台にしながら、新しい働き方を探しているのです。「保育士を続けるか、辞めるか」という二択ではなく、「保育士として培ったものを、どこでどう生かすか」という考え方もできるのだと思います。

AIを使える職場は、何が違うのか

今回のインタビューを振り返ると、二つの職場の違いが印象に残ります。以前の保育園では、若い先生がAIを使っていることを隠していました。現在の児童発達支援施設では、AIを使うことが認められています。

以前の園では、パソコンを導入しても、ファイルの保存場所や進め方が統一されていませんでした。現在の施設では、事務を担当する職員がフォーマットを整え、ほかの先生が使いやすいようにしています。

ここから見えてくるのは、「新しい技術を使えるかどうかは、個人の能力だけでは決まらない」ということです。

相談できる人がいる。
使い方が共有されている。
仕事の進め方が決まっている。
新しいものを試しても責められない。

こうした環境があって、初めて便利な技術を安心して使えるのでしょう。

AIを導入する前に、職場を整える必要があるのかもしれない

私は、保育現場の業務改善について考えるとき、どうしても新しいツールに目が向きます。

書類をAIで作れないか。
連絡帳を短時間で書けないか。
制作物の準備を効率化できないか。

もちろん、どれも必要でしょう。

でも、今回の話を聞いて、それだけでは足りないと感じました。

AIを使って文章が上達しても、それを隠さなければいけない職場があります。パソコンを導入しても、かえって情報共有が難しくなる職場があります。

一方で、特別に複雑な仕組みを使わなくても、職員同士で役割を分け、堂々とAIを使えている施設もあります。違いを生んでいるのは、技術だけではありません。職場の考え方と、仕事を進める仕組みです。

AIを使うことを認める。
困ったときに相談できるようにする。
ファイルやフォーマットを共有する。
そして、AIが作ったものを人が確認する。

こうした土台がなければ、便利なサービスを導入しても、十分に生かせないのかもしれません。今回の話から、新しい問いが生まれました。「保育士がAIを使えるようになるには、AIの使い方を教える前に、何を変える必要があるのか」便利な技術を作るだけでなく、それを安心して使える職場をどう作るのか。「保育園・幼稚園・子ども園の現場100人インタビュー」で、引き続き考えていきたいと思います。


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